薬剤師の気ままブログ

精神科門前の管理薬剤師。勉強したことの備忘録(薬や病気)やたまに趣味などについて気の向くままに書いていきます。

モルヒネ100倍量投与のニュースと過去の医療事故(ピルシカイニド)の勉強

 

今回のモルヒネの事故の概要と考察

93歳男性。主訴は息苦しさ。現病歴は心不全。必要量100倍のモルヒネの内服薬を処方され、投与1週間後に死亡。処方医と薬剤師が業務上過失致死の疑いで書類送検。現在わかっている情報はこれだけです。2021年2月の事故ですが、詳しくは明らかになっていません。

内服で100倍量とのことなので、おそらく散剤でしょう。単なるgとmgの間違いであれば1000倍の差になるはずなので、希釈率の差でしょうか。散剤にはモルヒネ原末と細粒2%、6%があります。モルヒネ細粒2% 0.5g(成分量10mg)を処方しようとして間違って原末を出して0.5g=500mgになってしまった、とかはありそうです。これだと50倍ですけどね。

調剤過誤については全てが明日は我が身だと思っています。ミスをしない人間はいません。過去の教訓を活かして気を引き締めていくのみです。今回の事例も詳細が明らかになったら経緯を確認し、自分の業務を見返すきっかけにしたいところです。

 

心不全へのモルヒネ

呼吸困難は終末期心不全の主要な症状の1つであり、60~88%に認められ、少量モルヒネの有効性が報告されています。適切な用量については十分に検討されていませんが、2の文献ではNYHA Ⅲ~Ⅳの慢性心不全の呼吸困難に対しモルヒネ5mgを1日4回 4日間投与し、呼吸困難の改善が見られたとされています。

作用機序は詳しくわかっていませんが、中枢神経系での知覚低下、延髄呼吸中枢のCO2に対する感受性低下や呼吸リズムを抑制し呼吸数を減少させることによる呼吸仕事量の軽減、有効な深呼吸の確保、抗不安作用などが関係していると推測されています。

今回のケースも主訴息苦しさ、心不全の既往のため末期心不全への使用だったのかもしれません。仮にモルヒネ原末を0.5gで処方してしまった場合、成分量は500mgとなり、このとき必要量の100倍投与となります。

 

ピルシカイニドの死亡事故

薬での医療事故といえば、2021年のピルシカイニドでの死亡事故のニュースが記憶に新しいです。

概要は、

80歳代女性。病歴は腎不全(透析)、発作性心房細動等。今回は転倒にて大腿骨骨折で入院。入院前からアプリンジンを服用していたが、採用がないためピルシカイニドへ代替し入院4日目から変更。入院4日目に骨折のOpe。入院10日目に心室頻拍が出現したが薬物治療で軽快。入院11日目に再び心室頻拍が出現。薬物治療で改善し死亡。

です。

ピルシカイニドは透析時に減量調整が必要ですが、通常量を投与したことで過量となってしまい、心室頻拍でお亡くなりになっていまいました。

 

ピルシカイニドの過量投与

インタビューフォームには下記のように記載されています。

13. 過量投与

13.1 症状

過量投与又は高度の腎機能障害により、本剤の血中濃度が上昇した場合、刺激伝導障害(著明なQRS幅の増大等)、心停止、心不全心室細動心室頻拍(Torsades de pointesを含む)、洞停止、徐脈、ショック、失神、血圧低下等の循環器障害、構語障害等の精神・神経障害を引き起こすことがある。

解説

本剤が過量となった場合、本剤の薬理作用の延長と考えられる伝導障害(著明なQRS幅の増大等)の心電図異常が認められるほか、心停止、心不全心室細動心室頻拍(Torsades de pointesを含む)等の重篤心室不整脈、徐脈、ショック、血圧低下等の循環器障害、また、極めて血中濃度が高い場合は、構語障害等の精神・神経障害が認められることがあると報告されている。 

 

症例報告(8)では高齢者の脱水→急性腎前性腎不全→高カリウム血症+ピルシカイニド中毒による高度徐脈(28/分)+QRS幅高度延長(188msec)が報告されています。透析だけでなく夏季の脱水などにも注意が必要であることが読み取れます。この文献においても、Ⅰc群抗不整脈薬による多形性心室頻拍のメカニズムは、Naチャネル遮断による高度の伝導障害の可能性が高いとされています。

 

ピルシカイニドとアプリンジンの比較

腎障害時の減量と代謝、排泄

4のガイドラインによると、アプリンジンは腎機能低下~透析まで全て腎機能正常者と同じ用量での使用が可能です。一方ピルシカイニドは通常量150~225mg 分3のところ、GFR or CCr30~59では50mg 分1、15~29では25mg 分1、15未満では1回25mgを48時間毎と減量調整が必要となっています。透析性も低い(20%)ため、1回25mg48時間毎からの開始が必要です。

アプリンジンの主代謝は肝臓です。主要代謝物はデスエチル体と水酸化体。水酸化体は抱合され腎臓から排泄されるようですが、活性代謝物はデスエチル体のみ(アプリンジンと同等の抗不整脈作用あり)なので腎機能低下時も問題ないようです。なので減量調整不要なのですね。

ピルシカイニドは主に腎排泄。24時間内尿中未変化体排泄率は75~86%で、血液透析での除去率は4時間で25%となっています。

 

不整脈薬としての比較

Vaughan Williams分類においてアプリンジンはⅠb群、ピルシカイニドはIc群に分類されています。

Ⅰb群はNaチャネル遮断、Kチャネル開放の作用を持ち、活動電位持続時間、不応期が短縮(PR間隔・QRS幅不変、QT短縮)。チャネルへの結合、解離の速度が速いためPR間隔・QRS幅には影響しないと言われています。

Ic群はNaチャネル遮断作用がメインでKチャネルには影響しません。PR間隔、QRS幅は大きく延長させますがQT間隔には影響しません。PR間隔・QRS幅の延長はチャネルへの結合、解離がⅠ群の中で最も遅いためと言われています。

 

Sicilian Gambitでの比較は下記です。

・アプリンジン

Naチャネル:高い遮断作用。結合、解離速度中間。不活性化チャネルブロッカー(不活性化状態のイオンチャネルをブロック)

低い遮断作用:Ca、K、If

臨床効果:左室機能→、洞調律→、心外性は中等度

心電図所見:PR↑、QRS↑、JT

 

・ピルシカイニド

Naチャネル:高い遮断作用。結合、解離速度遅い。活性化チャネルブロッカー(活性化状態のイオンチャネルをブロック)

Naチャネル以外の阻害作用なし

臨床効果:左室機能↓→、洞調律→、心外性は低い

心電図所見:PR↑、QRS↑

 

Naチャネルブロッカーとしてのざっくりとした薬理作用は同じですが、細かいところは同効薬ではなさそうです。

採用がないから変更、というのは病院ならではですね。薬局で同じようなことをするとめちゃめちゃ怒られると思います。患者さんの同意を取ったうえでトローチのハッカ味とストロベリー味を替えようとするだけでも怒られますからね。

 

不整脈ガイドライン

発作性心房細動とは治療の有無にかかわらず7日以内に洞調律に復する心房細動と定義されています。

発作性心房細動の中で器質的心疾患がなく、持続が短いものはNaチャネルブロッカーの効果が高いとされ、発作時の優先的な投与が推奨されています。第一選択としてはピルシカイニド、シベンゾリン、プロパフェノン、フレカイニドが挙げられています。

器質的心疾患を持たない場合の再発予防としては、Kチャネルへの作用を持つシベンゾリンは長時間持続するケースに効果的、β遮断作用を持つプロパフェノンは昼間型により効果的な可能性がある、などはありますが、普遍的な効果が期待できるのはNaチャネル遮断作用と言われています。器質的心疾患のない場合の再発予防の選択肢としてはピルシカイニド、シベンゾリン 、プロパフェノン 、フレカイニド、べプリジルが挙げられています。

 

Naチャネル以外への作用は違えど、アプリンジン→ピルシカイニドへの変更は治療上妥当のようです。ピルシカイニドの方がピュアなNaチャネルブロッカーである分、心外副作用が軽くてむしろ良い投薬なのかもしれません。

 

 

参考文献

  1. 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
  2. Morphine for the relief of breathlessness in patients with chronic heart failure--a pilot study(Eur J Heart Fail. 2002 Dec;4(6):753-6.doi: 10.1016/s1388-9842(02)00158-7. PMID: 12453546)
  3. がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016 日本緩和医療学会
  4. 薬剤性腎障害診療ガイドライン2016
  5. アスペノンカプセル インタビューフォーム
  6. サンリズムカプセル インタビューフォーム
  7. 2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン
  8. 高齢者で認められたピルシカイニド中毒に対し緊急血液透析で救命し得た1例(心臓 Vol.46 SUPPL.2  2014)